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2006/06/29 更新

基調講演1 「がんの痛みと医療用麻薬−その不安を解く−」
星薬科大学薬品毒性学教授 鈴木 勉
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星薬科大学薬品毒性学教授 鈴木 勉氏

 現在、日本において死亡原因の第1位は、がんです。がんは怖い病気といわれていますが、その怖さにはがんに伴う「痛み」に対するものが大きな比重を占めています。今日の医療にとってこの痛みの治療が大きな目標です。がんの痛みを薬で取る方法に、WHO(世界保健機関)方式がん疼痛治療法があります。この治療法は、WHO3段階除痛ラダーと呼ばれ(図1)、鎮痛作用の強さから3段階に分類した鎮痛薬をラダーすなわち「階段」状に使用していきます。軽い痛みには広く痛み止めとして使われているアスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬を使い、軽度〜中等度の痛みには咳止めとして使われているコデインを使います。中等度〜高度の痛みにはモルヒネ、フェンタニル、オキシドコンという「医療用麻薬」を使います。これらの薬剤を適切に使用することで、80〜90%のがんの痛みを取り除くことができます。この「3段階除痛ラダー」(図1)はWHOが1996年に発表し世界中に普及しています。この方法はどの病院でもできる効果的な除痛法です。

【図1】

WHO3段階除痛ラダー

 しかし日本ではまだ医療用麻薬に対する誤解と偏見が多く、国内の消費量は2002年で世界平均の約3分の1に過ぎません。一般の方々を対象としたモルヒネのイメージに関するアンケート調査でも、「麻薬」「痛みを取る最後の手段」「中毒・依存症になる」というネガティブな答えが50%前後もあります。がんの患者さんの中にも「麻薬中毒になるのでは」「死期が早まる」と考え、痛みを我慢していらっしゃる方も現実にいらっしゃるでしょう。

 昨年文化勲章を受けられた日野原先生は「生き方上手」という著書の中で、「モルヒネは上手にコントロールしながら使えば、患者さんを痛みから解放するだけでなく、患者さんに知性や感性を取り戻してくれます。痛みがなくなれば、人は死への恐れからも解放されます」と書かれています。医療用麻薬は医薬品の基準に従い厚生労働省が審査し、有効性および安全性が確認され製造、販売が許可されたもので、がん疼痛治療に不可欠な医薬品です。

 それではなぜ医療用麻薬には悪いイメージがあるのでしょう。かつては末期がん患者にしか使われなかったことから来る誤解や、大麻や覚せい剤と同じように「怖い薬」として捉える人が多いことも原因でしょう。また、麻薬=中毒というイメージが非常に根強く残っています。

 たしかに痛みのない人が不正に医療用麻薬を使うと中毒に陥ります。私たちの脳の快楽中枢に医療用麻薬が作用して快楽中枢を興奮させ、快楽物質(ドパミン)が出て快楽を感じるため、薬から抜け出せない状態になるからです。しかし痛みがあるときには医療用麻薬を使用しても中毒は起こりません。それは、これまでの幅広い臨床経験によって明らかにされており、私たちが世界で初めて行ったモルヒネの動物実験でも証明しています。がん疼痛のような痛みがある場合には快楽中枢の働きが弱まり、快楽物質のドパミンは減ってモルヒネ中毒にならないということが初めてわかってきたのです。

 医療用麻薬は安全でがんの痛みに効果的なのに、「怖い薬」という間違った先入観から抜け出せずにいるのが現実です。その先入観を取り除くには、市民の皆さんの医療用麻薬に対する正しいご理解が必要です。どうか少しでも多くの方々にこのことを知っていただきたいと思います。

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 ・基調講演1「がんの痛みと医療用麻薬」
 ・基調講演2「心のケア・家族のケア」
 ・シンポジウム1「がんの治療に必要な緩和ケア」
 ・シンポジウム2「秋田市医師会での取り組み」
 ・シンポジウム3「ホスピス病棟では」
 ・シンポジウム4「在宅ホスピスケア」
 ・秋田宣言

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